第174章

稲垣栄作が帰る時、雨が降り始めていた。

ワイパーを作動させると、フロントガラス越しに都市のネオンが雨に滲んでぼんやりとした姿になった。

夜の空気が徐々に冷たくなってきた。

車を走らせること五分ほど、

遠くに、白いマセラティが道端で故障していた。女性が傘を差しながらボンネットを開け、少し見たあと車内に戻っていく……

なんと高橋遥だった。

稲垣栄作は速度を落とし、ゆっくりと横に停車した。

彼は二枚の窓ガラス越しに、静かに彼女を見つめた。

彼は彼女が困り果てている様子を見つめ、車内で何かを探している姿を見た。名刺か何かを探しているのだろう……

やがて、高橋遥が顔を上げ、彼に気づい...

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